As-Is To-Beとは?「業務改善」で見落とされがちな本当の意味

公開日: 2026年7月8日

As-Is To-Beという言葉、実は「変更前・変更後」ではありません。BPRの歴史から紐解く、To-Beが本来意味する「変革」とは何かを解説します。

As-Is To-Beとは?「業務改善」で見落とされがちな本当の意味

業務改善プロジェクトやDX案件で必ずと言っていいほど登場する「As-Is / To-Be分析」。多くの現場では「変更前(As-Is)」と「変更後(To-Be)」という、単なる時系列の対比として使われています。

しかし、この理解には大きな見落としがあります。本来のTo-Beは「今の延長線上にある未来」ではなく、既存プロセスの存在自体を疑い、白紙から作り替える変革を意味する言葉だったのです。

今回は、この言葉が生まれた背景から、なぜ現場で形骸化しやすいのかまでを整理してみます。

「As is to As」になってしまう現場のあるある

To-Beを描く工程で、実際によく起きているのはこんな現象です。

  • 現場へのヒアリングを丁寧に行うほど、「今のやり方」が正解に見えてくる
  • To-Beの資料が、既存の業務フロー図を少し整理しただけの絵になっている
  • 組織構造や評価制度まで踏み込むのが怖くて、無意識に実現可能な範囲に着地する
  • As-Isを先に精緻に分析するせいで、思考がAs-Isに引っ張られる

これらの結果、本来「変更前 → あるべき姿」であるはずのプロセスが、実質的には「変更前 → ちょっと良くなった変更前」、つまり**「As is to As」**になってしまうのです。

As-Is / To-Beという言葉の起源

この言葉はもともと、1990年代のBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)運動の中で定着したものです。

きっかけは、マサチューセッツ工科大学の元教授であったマイケル・ハマーが1990年にハーバード・ビジネス・レビューに寄稿した論文でした。そこでハマーは、経営者の課題は業務を自動化することではなく、価値を生まない業務そのものをなくすことだと主張しました。この考え方は「自動化するな、破壊せよ」という強烈な言葉で知られるようになります。

その3年後、ハマーはジェームズ・チャンピーと共著で『リエンジニアリング革命』を出版し、BPRという考え方を一気に世に広めました。この本でBPRは、コスト・品質・サービス・スピードといった重要な業績指標において劇的な改善を達成するために、業務プロセスを根本から見直し、抜本的に再設計する取り組みとして定義されています。

ここで重要なのは、BPRが最初から白紙の状態からの設計を前提にしていたという点です。既存のプロセスをベースに改良するのではなく、「そもそもこの業務は必要なのか」を問うところから始まる。これが本来のTo-Beの出発点でした。

“To Be” という言葉が持つ二重の意味

英語の"As Is"と"To Be"を文法的に見ると、興味深い構造が見えてきます。

  • As Is = “as it is”(それがある通りに)の省略形。現状の記述
  • To Be = “as it is to be”(そうあるべきように)の省略形。未来への当為(とうい)

“to be"には「存在する」という意味だけでなく、“is to be done”(〜されるべきである)のように、義務・必然・目的を示す助動詞的な用法があります。つまり、

As Is To Be
問うもの 何が起きているか 何であるべきか
根拠 観察・事実 目的・価値・存在意義
変化の性質 なし(記述のみ) 規範からの逆算(非連続)

To-Beが本来指しているのは「時間が経過した後の状態」ではなく、「本来そうあるべき状態」なのです。哲学の言葉を借りれば、存在(Sein)と当為(Sollen)の対比に近い構造だと言えます。

なぜ「業務改善」とTo-Beは相性が悪いのか

ここまで整理すると、ある矛盾が見えてきます。それは「業務改善」という言葉自体が持つ思想と、To-Beが本来求める思想が、根本的に異なるという点です。

  • 業務改善(Kaizen):トヨタ生産方式に代表される、連続的・漸進的な改善の思想。前提として「今のプロセスは存在し続ける」ことを疑わない
  • BPRのTo-Be:非連続・規範的な変革の思想。既存のプロセスが本当に必要かどうかを問うところから始まる

BPRの実践に関する分析では、企業が段階的な改善だけでは埋められないほど業績のギャップが大きくなったときにBPRが選ばれる、と整理されています。つまりBPRは「もっと良くする」ための手法ではなく、「段階的改善では届かない場所に届くため」の手法だったわけです。

にもかかわらず、日本の実務では「業務改善プロジェクト」という看板の中に「As-Is / To-Be分析」というフレームワークがそのまま持ち込まれています。これが違和感の正体です。「改善」という言葉自体がすでに「今あるものを良くする」という意味を含んでいるため、看板を掲げた瞬間に、当為としてのBeを問う資格を失ってしまうのです。

BPRが辿った教訓も踏まえて

もう一つ触れておきたいのが、BPRという手法自体がその後どうなったかです。

1990年代にBPRブームが起きた後、多くの企業がこの手法に飛びつきましたが、初期の調査ではリエンジニアリングの取り組みの7割以上がかえって状況を悪化させたと報告されています。混乱や遅延、従業員の反発を招き、BPRという言葉自体が人員削減の口実として使われるケースも目立ちました。ハマー自身やチャンピー、そして初期の提唱者であったトーマス・ダベンポートも、後にその反省を公の場で語っています。

この教訓が示しているのは、「白紙から設計し直す」という非連続な変革には、相応の覚悟とプロセスに関わる人々への配慮が不可欠だということです。To-Beを本気で描くなら、それは業務フローの絵を描き直す作業ではなく、組織や働く人々を含めた構造そのものの変革だと理解しておく必要があります。

近年ではAIによる自動化の波を背景に、BPRの考え方が再び注目されているという指摘もあります。壊れたプロセスを自動化しても、速く壊れたプロセスになるだけだからです。AIを本当に意味のあるものにするには、まず業務プロセスそのものを理解し、再設計することが先決だという主張です。

まとめ:Beを問う前に、看板を疑う

As-Is To-Beという言葉は、本来「変更前・変更後」という単純な時系列の対比ではありません。

  • As-Isは「今、何が起きているか」という記述
  • To-Beは「本来どうあるべきか」という当為であり、非連続な変革を意味する

もし今取り組んでいるプロジェクトで、To-Beが「ちょっと良くなったAs-Is」にしかなっていないとしたら、それはTo-Beの描き方の問題である以前に、プロジェクトの看板そのもの——「業務改善」という言葉が持つ前提——を疑ってみる価値があるかもしれません。

本当に変革を実現したいのであれば、必要なのは「業務改善プロジェクト」という名の漸進的な取り組みではなく、事業変革や組織再設計としてスコープと権限を設計し直すことなのです。